共同親権についての基礎知識

2022年度国会では「共同親権」を導入する民法の改正案についての提出について議論されていましたが、見送りになりました。

見送りの理由は、家庭内暴力(DV)や虐待のリスクを回避できないのではという懸念が別居親の子どもの養育にかかわりやすくするメリットを上回るという判断からのようです。

親権制度の見直しは2011年の民法改正時に付帯決議として検討が明記されたことに始まりますが、2020年から議論を始めた法制審部会では、2022年11月に「単独親権を残して共同親権を導入する案」と「単独親権のみを維持する案」を併記した中間報告をまとめています。

なお、共同親権を認める案では、「原則共同親権として例外的に単独親権にする」ものと「原則単独親権として例外的に共同親権にする」という対立した見解が同居する事態を解決できずにいることとなっています。

そこに「どちらにするか個別に判断」という案を加えると、実際には4案が検討課題として残された状態になっている、ということになります。

議員介入の問題

この問題を遅らせている原因のひとつに、「自民党推進派の介入」が指摘されています。

これは、2022年夏に、法相の諮問機関が、共同親権と単独親権のみの2を併記する中間試案をまとめて自民部会に示したところ、「原則共同親権であるべき」と反発し、秋に予定していたパブコメが延期せざるをえなくなったことを指しています。

さらに、3ヶ月遅れることになったパブコメについても、推進派が判断材料となる参考資料について、原案作成の段階から関与していることが問題視されています。導入に慎重な有志の弁護士グループは、「共同親権に誘導する内容になっている」というクレームを入れています。

ちなみに、法務省は、「外部の意見を資料に反映していけないという決まりはない」と関与には問題がないという見解を示しています。

日本弁護士連合会は共同親権の導入について、「一致した意見の表明は困難とし、各都道府県弁護士会では「両議併記とする」が多数を占めています。

この圧力の背景は、離婚後に子どもと会う機会を奪われた父母の相談を受けている共同親権推進の超党派議連の存在に拠るところが大きいようです。

オーストラリアからの圧力

この問題について、2013年3月に海外から圧力がかかりました。

オーストラリア政府が単独親権しか認めていない日本に対し、共同親権を導入するよう意見書を提出したのです。

内政干渉かと思うようなニュースでしたが、日豪間で一方の親が子どもを無断で連れ帰る「連れ去り」が多発しているという国際問題になっているのが
理由でした。

この記事によれば、2004年以降でオーストラリアとのあいだに「連れ去り」があったのは82人ということです。

日本も加盟するハーグ条約では、こうした事件が発生した場合に、「子どもを元の居住国に戻して親権問題を法的に解決する」という道筋が立てられているのですが、日本では単独親権のために、解決の糸がつかめないケースがあるということなのです。

今後の見通し

このように、オーストラリアからの意見書、法務省のパブコメなど展開があったにもかかわらず(あったからこそ?)民法の改正案が見送られた共同親権問題ですが、4月のニュースでは「導入に向け具体的検討へ」という見出しが踊っていました。

部会では慎重論にも配慮して、共同親権を導入する方向で、具体的な制度設計について検討を進めるとのこと。

続報を待ちたいと思います。

参考:離婚後の共同親権につい て