限界マンション対策に国が本腰ーーポイントと問題点を整理してみる #マンション管理

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「住宅新報」2013年8月20日号に、マンション建て替え問題についてのポイントを整理した記事がありました。

記事の概要は…

マンション建て替えに関しては、安倍政権の規制改革の重要フォローアップの項目に取り上げられ、年内に国交省と法務省が、建て替え促進に向けた方策を示すように指示されているそうです。

すでに200件のマンションが立て替えによって再生され、ディベロッパーもこの分野に人員を割くような傾向が出ているとのこと。

ただし、ディベロッパーもビジネスなので、建て替えマンションに余剰床がなければ旨味がないとして、先頭に立って建て替えの音頭をとるのは難しくなるでしょう。

余剰床は建て替え費用にも影響するため、区分所有者の建て替えへのインセンティブも左右することも考えられます。

国交省はこの問題を解決するために、容積率の割り増しができるような方策を検討している模様。

さらに補助金も検討とのこと。

建て替え決議要件の緩和については、積極的な国交省に対して法務省が消極的なので、結論に至るのは難しいかもしれません。

記事後半には、耐震偽装マンションの「グランドステージ藤沢」建て替えを例に取り上げ、マンション建て替えの手法を解説しています。

進むか、マンション建て替え 規制改革会議で「重点項目」に 「決議要件緩和」は効果薄い?

[住宅新報 2013年8月20日号]

 老朽マンションの建て替え問題が、今後クローズアップされそうだ。これまでに、200件ほどのマンションで建て替え事業が行われているが、今後の進捗(ちょく)については不透明といえる。容積率の問題から、余剰床を確保することが難しい老朽マンションが多くなるからだ。そのような状況を危惧してか、経済社会の構造改革を進める政府の規制改革会議は、100項目以上に及ぶ検討項目の中から、「老朽化マンションの建替え等の促進」を、12項目の「重点的フォローアップ」の1つに選んだ。国土交通省と法務省は、建て替え促進に向けた何らかの方策を年度内に示す方針だ。このまま放置すれば、「スラム化」など社会問題への発展も懸念される老朽マンション問題。建て替え促進のヒントを探った。

 7月下旬に開かれた第13回規制改革会議で、「老朽化マンションの建替え等の促進」が重点的フォローアップ事項に選ばれた。重点的フォローアップ事項は「(改革について)確実な実現を図る」とされるもので、同会議の岡素之議長(住友商事相談役)も、「このテーマは大変重要だと認識している」と話す。現在、マンション建て替えを担当する国土交通省と法務省は、促進に向けての方策を話し合っている最中だ。年度内にも方針を示すよう、同会議では両省に求めている。

 老朽化マンションの問題は今に始まったことではない。これまでに200件程度のマンションが建て替えにより再生。建て替えを専門とする部署の立ち上げや人員増強など、事業の積極化を打ち出すディベロッパーも出ている。人口減などにより、新築マンションの供給拡大が今後は難しいとされるため、建て替えを「新たな分譲事業」と位置付ける考えがあるようだ。

「余剰床」は重要要素

 ただ、ディベロッパー側としても、容積率が未消化で建て替えの際に生じる余剰床を分譲できるマンションであることが、建て替え対象の基本的条件となる。余剰床の分譲利益を出さなければ、事業収支が合わないからだ。「法定容積率300%のところ、現在は100%しか使っていない」という容積率の未消化があれば余剰床のねん出は容易だが、その「容積未消化」がない、もしくは既存不適格(建築した時は適法だったが、その後の建築基準法などの改正により現行法に対して不適格な部分が生じたもの。適合していない部分は規定の適用が除外され、存在は認められるが、一定範囲を超える増改築などを行う際には、規定に適合するよう既存部分の手直しが必要となる。)マンションであるため、建て替えにより「減築」を余儀なくされ、逆に床面積が減ってしまうマンションの建て替えが今後は問題となる。

 また、容積率の問題は、建て替えマンションの所有者にも大きな影響を及ぼす。余剰床があればその分をディベロッパーが買い取ってくれるため、建て替え費用への充当が可能だ。逆に言えば、余剰床がないと住民の経済的負担が大きくなり、また、ディベロッパーも事業に参画しにくいといったダブルの問題となる。

容積率の割り増し、検討へ

 国交省では、その解決を図るため容積率の割り増しに向けた方策を検討中だ。ただ、安易な割り増し策は建て替えの際の近隣紛争につながることが予想されるため、「街づくりのルールとしても納得できる内容」(国交省市街地建築課)が必要となる。更に、補助金制度の拡充なども検討することで、建て替え促進に向けた取り組みを強化する方針だ。

憲法上の問題にも

 現在、法務省が検討すべきこととして取り上げられているのが、「建替え決議要件の緩和」。容積率の割り増し同様、多くの業界団体から要望されている事項だ。

 現行の「区分所有者及び議決権の5分の4以上の賛成」とする建て替え決議要件について、割合を「3分の2」などに緩和するものだ。ただ、法務省では「建て替えを望まない区分所有者にとっては自らの権利が脅かされる」という側面も考慮せざるを得ず、財産権の強制処分といった点から、「憲法上の問題にもなりかねない」と言及している。

 コーポラティブハウスやマンション建て替えのコンサルティングを行うタウン・クリエイション(東京都渋谷区)の石川修詞社長は、「決議要件の緩和が実現すれば、建て替え決議は得られやすくなる。ただ、それがダイレクトな建て替え促進策だとは言えない」と話す。建て替え決議がなされたとしても、「断固応じない」と居座る住民が出るケースもある。その時は裁判の強制執行などで解決することになるが、数年の月日を要することが想定される。「その間に、建築費の高騰など経済環境の変化で、建て替え計画を再度見直す必要性が出てくるかもしれない。また、周辺環境の変化で賛同者が『やはり建て替えは止めたい』と申し出るケースも想定される。余計な時間がかかることは、建替え事業においては大きなリスクとなる」(石川社長)。

 現行制度よりも合意形成が不十分なままで建て替え決議ができる緩和策は、このような「時間リスク」を発生させる人を、余計に生み出すかもしれないといった指摘もある。法務省では、「可能な限り関係する権利者全員の合意を得て進めるのでなければ、後の紛争を惹起(じゃっき)するだけ」とコメントしている。

 なお、業界団体からは「建て替え決議を借地借家法上の解約の正当事由として位置付けること」といった要望も出ており、今後、それらの法改正も検討されるかどうか、注目されるところだ。

「区分所有権の解消」も一考

 空き家など老朽住宅問題に詳しい富士通総研の米山秀隆上席主任研究員は、「区分所有権を解消し、マンションが建っている土地の売却金を分配する方法も、老朽化マンションの問題を解決する1つの方法」と話す。

 既存不適格などが原因で、現実的に建て替えが不可能なマンションが今後増えることは確実だ。その際、放置すればスラム化するため物件を解体しなければならないが、現在の法律では民法の規定に従い「全員合意」が条件となる。全員となると、なかなか前に進まないことが想定される。

 先の国会で「被災マンション法」が改正され、大規模な災害で重大な被害を受けたマンションの取り壊し要件が、全員合意から「5分の4」に緩和された。米山氏は、「通常のマンションにもこの要件を当てはめ、清算して、新たな居住資金の分配を行いやすくすることは、老朽化の解決メニューを1つ増やすことになる」と指摘する。

 ただ、通常規模のマンションでも解体費用は億単位に上る。「今後は、修繕積立金などと同様に、『解体積立金』といった資金をプールしておくことも考えていかなければならないだろう」と語る。

建て替え代表経験者が「支援協会」

 今年に入って、横浜に「一般社団法人老朽化マンション対策支援協会」が発足した。代表の鈴木元生氏(63、写真)は、耐震偽装マンション「グランドステージ藤沢」の建て替えの際、管理組合の代表を務めた人物だ。これから活動を本格化する方針で、「実際の知識や経験を、今後の建て替えの方々に提供できれば」と話す。

 最も注力するのは合意形成のための調整作業。特に難しいとされる高齢者などへの提案は、負担割合を少なくする最適な方法を模索する。「何かしらの結論を導かなければ、共倒れになることを覚悟すべき」。実際の建て替え経験者ならではの厳しさも持つ。

 グランドステージ藤沢は、賃貸併用型マンションで使われる「リッチライフプラン」によって建て替えを実現できた。従来の住宅ローンに、建て替え費用のローンが更にのしかかる「二重ローン」が、住民の建て替え合意のスピードを遅らせていた時、マンションディベロッパーのリッチライフ社から同プランの提案があった。二重ローンの問題を一気に解消するものだった。

 100m2の住戸を80m2と20m2に分け、20m2を賃貸する同プランによって、建て替え負担を軽減する青写真が描けた。「すべてのマンションに通用するとは限らないが、余剰床が確保できない、経済的負担が厳しいといった建て替えの悩みを、ある程度解消できるものだと思う」(鈴木代表)。リッチライフ社としては、20m2の賃貸部分の管理を受託することで、ビジネスモデルとしては成立するという。

 マンション建て替えの新たな手法として、今後注目されそうだ。