高齢者虐待防止法に違反した東京都北区のマンションのニュースについて

 

DIAMOND onlineの記事に「「高齢者虐待マンション」問題が映す都心部介護の深刻」というのがあったのが目に止まりました。

 

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これは、東京都が2月17日に都内北区の高齢者向けマンションに対して、介護保険法に基づいた改善の勧告を行なったことに基づいた概要を伝えるものです。

 

東京都は介護保険法違反ということで勧告を行なったわけですが、これに応じて北区では高齢者虐待防止法違反で指導も行なっています。

 

勧告や指導は行政処分ですが、逮捕や罰金といった罰則がない法律の場合は、「注意しましたよ」ということ止まりになってしまいます。

 

とはいえ、その後の事業の登録などに支障が出るため、意味のない罰則というほどではない影響力はあります。が、業者が別会社に乗り換えるなどの処置を施せば、勧告も指導も及びません。

 

DIAMOND onlineでは、テレビで虐待される高齢者のようすが取材されたことにも触れています。

 

虐待の内容については、ネットのまとめ記事などによると「ベルトでベッドに固定したり、おむつなどを脱がないようにつなぎ服を着用させたりするなどの身体拘束を日常的に行なっていたことが確認された」(NHKニュースより)とのこと。

 

介護ヘルパーの判断で、高齢者20人がこのような状況になっていたことも問題視されています。

 

運営する医療法人社団「岩江クリニック」では、医師の指示のもとに介護ヘルパーが行なった医療行為の一環であり、現場で恣意的・感情的に行なったものではないから問題ないとしているようです。行為に携わった介護ヘルパーも事業元から「合法だ」と言われ、納得させられていたとのこと。

 

この問題については、すでにNHKの「クローズアップ現代」2015年1月20日放送分「無届け介護ハウス」で取り上げられていました。

 

それによると、3年前の冬には4ヵ月間で28人の入居者が死亡していたことも明らかになっています。

 

このマンションについては、2012年には「拘束介護」が行なわれているとして問題視されていたにもかかわらず、議題に上がった北区の介護保険運営協議会ではこの発言を削除するなど、組織ぐるみ以上の大きな圧力があったようです。

 

その一端として、2014年11月には朝日新聞が連日「都内の大学病院などの複数の総合病院から入居の紹介があった」ことや、東京都が立ち入り監査を行なったこと、マンションに対して医療法人社団「岩江クリニック」が医師の訪問診療や往診を行なったとして診療報酬を請求していたのに、実際は診療行為がなかったらしいことなどを報道しています。

 

法の規制をすり抜けた高齢者介護マンションの闇

 

この高齢者マンションが問題になっているのは、単に高齢者が拘束などの虐待を受けていたことや、それを行政が見逃していたことだけではありません。見逃してしかるべき法律の穴をこのマンションが狡猾に利用していたところにさらなる大きな問題があります。

 

高齢者が利用する入居施設には、特別養護老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)、グループホームなどがあります。いずれも開設や運営に関しては関連法令を遵守する必要があり、それなりの運営コストが必要になります。

 

これに対して、この北区に建てられた3棟のマンションは、いずれにも該当しないにもかかわらず、高齢者を入居させて医療・介護サービスを行なっていたわけです。

 

マンションは勧告と指導を受けた「岩江クリニック」が不動産会社と提携して2002年、2007年、2011年にそれぞれ1棟ずつ開設し、合計147室あります。10平方メートルに満たない部屋に対して、家賃は月3万円。

 

しかし、医療・介護サービス付きであることが売りなわけですから、3万円だけで済むはずがありません。

 

食費として上限3万円、水道光熱費1万円、生活支援サービス3万円、医療・介護の一部負担金が5万円程度。合計で12万〜15万円ほどを支払わなければならないようです。

 

とはいえ、有料老人ホーム(月額20万〜40万円)やサ高住(月額15万〜30万円)、グループホーム(月額20万円程度)に比べると割安なので、ニーズは多かったと想像されます。それだけに、規制がかからないような配慮が黙認されたのでしょうが、それがまた隠れた虐待を引き起こす原因にもなっていたということです。

 

ちなみに、特別養護老人ホームの場合は、相部屋なら概算で月額10万円程度の負担、個室でも15万円程度になるのですが、なかなか空きがないという「待機高齢者」の問題も絡んできて、この「高齢者虐待マンション」の問題をさらに複雑にしているようです。

 

DIAMOND onlineの記事によると、特養の待機高齢者は東京都で4万3千人(2014年3月時点)とのこと。入居できるまでは自宅介護となるわけですが、デイサービスで持ちこたえることができなくなれば、こうした無許可の高齢者マンションに頼らざるを得ない実態が浮かび上がってくるはずです。

 

虐待の原因も、もともとは介護報酬の削減による人材不足などで、こうした介護施設が拡充できないという制度の不備によるものが大きいでしょう。

 

もちろん、物言わぬ高齢者にそうした不満をぶつけて解消することは論外ですが、虐待事件で浮かび上がった老後のすみかの問題は、視点を変えてマンションの管理問題とともに考えていかなければならないようです。