東洋ゴム免震事件に学ぶべきはマンション管理のコスパ偏重という無知

 

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2015年の上半期で建築・住宅関連業界を震撼させたニュースといえば、東洋ゴム工業による免震装置の性能偽装事件でしょう。

 

この件について、建築&住宅ジャーナリストの細野透氏がSAFETY JAPANというサイトでさまざまな角度から取り上げている記事をアップしています。

 

概要を記しているのはこちらの記事。

防災拠点がなぜ「東洋ゴム免震事件」に巻き込まれたのか──『耐震偽装』の著者が分析(前編)|SAFTY JAPAN

 

また、続報として、不適合マンションの存在が浮かび上がってきていることを指摘し、その問題点について論じています。

 

マンション管理組合の理事会などでも、「ウチは大丈夫なのか?」と冗談交じりに話題となったりすることもあるのではないでしょうか。

 

この件に関して、大臣認定不適合の「共同住宅」は74棟あるとされています。これは、東洋ゴムの免震装置を採用し、不適合と判明した装置の使用が確認された建物です。

 

「免震」をうたって売り出した高級マンションに該当するのであれば問い合わせたいところですが、該当74棟については未発表とのこと(20154月末現在)。ただし、住友不動産と東急不動産の2社は、「当社が販売した物件」について311日に国土交通省が公表した大臣認定不適合判明の装置を使用していた55棟には含まれないことを発表しています。

 

ただし、大臣認定不適合判明の装置を使用していた「共同住宅」については、421日にも新たに90棟が判明したと公表されています。

 

東洋ゴムはこれら大臣認定不適合判明の装置について、全交換または部分交換をするとの発表をしているため、調べなくても該当マンションには連絡されていることでしょう。連絡されたくはないですが。。。

 

安心のための「免震装置」がなぜ偽装されたのか?

該当マンションを購入してしまった人は不運としか言いようがありません。しかし、こうした事態は「起こるべくして起こった」と言える部分もあります。

 

細野透氏の「防災拠点がなぜ「東洋ゴム免震事件」に巻き込まれたのか|SAFETY JAPAN」では、この偽装事件の背景には「コストパフォーマンス重視という見せかけの営業によって入札競争を切り抜けるテクニック」が災いしたと指摘しています。

 

具体的には、コスパが高いことが「価格の割には品質がいい」というイメージを逆手にとって、価格優先の入札に関して品質を疎かにしてきた企業体質が招いた偽装ということです。

 

特に公共分野の入札では安い工事費が決め手になるので、割高な安全技術とは本来は両立できないはず。

 

マンション管理組合の修繕でも同様のリスクが存在

この事件を「対岸の火事」と見てはいけません。

 

私がこのニュースを目にして思ったのは、「マンション管理組合で話し合われる修繕などの工事についての決定経過によく似ているな」というものでした。

 

コスパ重視すなわち管理組合からの出費を少しでも抑えるという金科玉条のために品質を精査せずに議決が通ってしまうという状況が当たり前のようになっているのではないでしょうか。

 

建築や設備について精通しているマンション管理組合理事はごくごくまれでしょう。それを考えると「仕方ない」議事進行なのかもしれませんが、安全に関わる偽装問題が表面化したときに、「仕方ない」では済まされないのも事実。

 

理事のなかには、数字にのみ固執して自分の役割をまっとうしようと意気込む人も多く見かけます。値切るのに専門的な知識は必要ありませんからね。でも、その値切りが、大きなリスクを招きかねないということも念頭に置いておかなければなりません。

 

具体的な対処としては、やはり専門的な知識をもつ第三者の積極的な活用が必要になるでしょう。

 

とはいえ、免震や耐震に関する専門的なアドバイスができる人は限られていますし、それこそ業者側で「お墨付き」を与えた専門家に相談するしかない場合も考えられます。その場合には当然、「問題がないことをすでに発表している」という回答しか得られないことになるわけです。

 

そうなると「当たるも八卦、当たらぬも八卦」としか言いようがないというのが現状かもしれませんしかし、少なくとも安全に関して業者と信頼関係を築くことができるような選定過程を醸成することや、値切り至上主義的な無意味な相見積もりを見直す意識改革が必要です。