民泊に対する規制緩和案を盛り込んだ新法の締結へ
このコラムでも取り上げてきた民泊。いよいよ政府は本格的に業としての民泊を認めるためにゴールに向かって動き出したようです。
そもそも民泊ってなんなの?
民泊というのは日本独特の表現らしいですね。一般の民家に泊まるから民泊(みんぱく)と称したわけですけれど、それはつまり反対語として一般じゃなくて、しかも民家じゃない宿泊施設があるから。
一般の民家と聞くと、「民宿とは違うの?」と思う人もいるでしょう。
民宿というのは旅館営業法で「簡易宿所」として認められていなければお客さんを受け入れることはできません。お客さんを受け入れるために、設備や衛生面でいろいろな規制があり、部屋が空いているからと言って誰でも自由にそれを貸し出してお金をもらえるということではないわけです。
ところで海外では、バケーション・レンタルという名称で、わりと一般的に利用されているという状況だったりします。ホームステイやベッド&ブレックファーストなんていう短期海外旅行のスタイルを耳にしたことがある人も(もちろん体験したことがある人を含めて)多いのではないでしょうか。
こうしたスタイルは個人の範囲でこぢんまりと行なわれているうちは問題視されなかったわけですが、ネットの発達で利用希望者と提供者を繋ぐ方法が飛躍的に簡便になったことで、一気にビジネスとして注目されるようになりました。
代表的なのが、Airbnb(エアビーアンドビー)でしょう。
そしてその波が、日本にも押し寄せてきている、というわけです。
民泊の現状について
前述のとおり、日本では旅館業法というものがあるために、お金を稼ぐために不特定の人を宿泊させるには許可を受けなければなりません。これには厳しい規制があり、「ウチのアパートの1部屋が空いているから、誰か長期の借り手が見つかるまで旅行者を泊めて店賃の足しにするか……」といったことが簡単にはできません。
一方で日本政府は観光立国を標榜し、外貨獲得の手段として海外から観光客を呼び込むことに積極的になっています。
これによって観光客が増えて、政府の一方の思惑は達せられているのですが、その一方で押し寄せる観光客を泊まらせる施設が圧倒的に少ないという問題が露見してしまったのです。
そこでクローズアップされたのが、空いている部屋を流用できる民泊でした。
2016年に入って、段階的に民泊の解禁に向けた実験が進められています。東京・大田区と大阪府では条例を改正し、合法的に民泊が行なわれるようになっています。
ただし、6泊7日以上の宿泊者からしか受け入れられないなど、現実的ではなかったことも事実。そこへきての、この「全面解禁」というニュースでした。
民泊のなにが認められるようになるのか?
5/13付けでリリースされた民泊法案に向けてのニュースの内容を見ていきましょう。ヘッドラインは次のとおりです。
政府は一般住宅に旅行者らを有料で泊める「民泊」の全面解禁に向けた原案をまとめた。マンションなどを所有する貸主がネットで簡単な手続きを済ませれば、旅館業法上の許可なしで部屋を貸し出せるようになる。いまは禁じている住宅地での営業も認める。都市部を中心に足りなくなっている宿泊施設を増やし、訪日外国人の拡大につなげる。
民泊を全面解禁 住宅地で営業認める 政府原案 ネットで申請、許可不要に|日本経済新聞
この原案は5月末に閣議決定され、2017年の通常国会に新法として提出されるとのことです。厚労省がすでに4月の時点で旅館業法の改正で一般の民家を宿泊施設として認める規制緩和策を打ち出していたのですが、エリアの規制を解除するまでには至らず、これに手を付けようというのが今回の新法提出ということになります。
新法の特徴は
- ネットで届け出ることができる
- 帳場など旅館に準ずる設備の設置が必要なくなる
- マイナンバーで住民票なしでも届け出が可能
- 住宅地でも民泊営業が可能
といったあたりでしょうか。
さらに、旅館業法では宿泊を原則として断ることができないのに対して、民泊ではオーナーの意向で断ることができるようにしている点も、ハードルを下げることにつながるでしょう。
宿泊人数の制限や営業日数の上限などは、今後旅館業界などと調整して決められるようです。
民泊ビジネスの注意点とマンション管理組合の対応について
このコラムでもすでに言及していますが、民泊の対象となっているのは「区分所有ではない不動産」というのが大前提です。
管理組合組員の総意で、その区分所有マンションをまるごと民泊施設として運用したいというケースがないとはいえないでしょうが、現実的には区分所有マンションのオーナーからは民泊に対する反発が強く、最初のハードルである管理組合規約の改正ができずに民泊不可となるケースがほとんどのようです。この傾向は今後も強まっていくでしょう。
不特定多数の人が出入りをして監視が行き届かなくなりがちな民泊は、区分所有マンションの資産価値を損ねるという考えから、こういう傾向は今後も転換しないと思われます。
したがって、区分所有マンションのオーナーが空室に困っているからといって、この新法で民泊に手を出せるようになるわけではありません。この点は勘違いしないようにしていただきたく、管理組合もぶれずに対応することが求められます。
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