[実録マンション管理組合活動]鉄部塗装工事でのトラブル「安い業者の落とし穴」その1

 

その日、出掛けたのは、理事長を務めている都内のSマンション。

 

2590069110_873f487c54_m photo by widdowquinn

 

総会で決議された鉄部塗装工事についてちょっとしたトラブルが発生して……

 

現地で関係者が集まって対策を考えようということになった。

今回のトラブルの報が入ったのは前日。「今回の」というのは、実はこの工事に関しては、着手前から一悶着があったのだ。

この工事、管理組合の自主性を尊重する、と言えば聞こえはいいのだが、ある役員から「知っていると創業者に頼めば、管理会社提案の見積より3割以上安い」という発言があり、それにのってしまった。その結果、トラブルになって対応に追われるという、典型的なダメ・パターンに陥っているのだ。

 

理事長としては「工事が安く済む」「役員の紹介という担保がある」となれば、異議を唱えるには相応の材料を用意しなければならない。

 

相見積でその紹介業者よりも安くしなければならないだろうし、対抗馬を推した以上それ相応の責任をとらなければならないのは言うまでもない。

 

その手間を惜しむ気持ちがなかったとは言わないが、一方では「安くて腕のいい業者」に発注できるのであれば儲けものという、至極真っ当な判断が働いたことも申し添えておきたい。

 

それもこれも、この鉄部塗装工事が滞りなく終わっていればの話だったわけだがーー。

 

工事は、紹介してもらった業者と管理組合が直接契約するかたちをとった。管理業務上の延長上で修繕工事類を行なう場合、管理会社があいだに入って施工監理をしながら工事全体の管理をすることが多いと思うが、今回は相手業者の仕事ぶりが不明ということで、管理会社が手を上げてくれなかった。この点で、やはり管理会社は経験値が高い分、鼻が利くと後から思ったものだ。後の祭りだったけど。

 

紹介した役員が建築系の有資格者ということもあったので、紹介した責任を取ってもらうという“たてまえ”で終了確認のチェック等を引き受けてもらうという条件を付けて、契約を進めることにした。

 

ところが、工事が始まると、初日から現場の仕切りなどの件でトラブルが発生し、理事長である自分が事情を確かめるために現場へ足を運ぶことになったりした。不安的中である。

 

本来こうした修繕工事は、事前に居住者に周知して、当日も苦情が内容配慮が必要であるのだが、この業者は晴れれば予告なく現場に来て工事に取りかかったり、専有使用部分への立ち入りもその場で処理しようとしたりと、“監理”という概念をもっていないもよう。

案の定、管理員にクレームが入って、フロントから自分へと電話が回ってきたわけだ。「工事業者が勝手なことをしている」と。

さらに面倒なことには、クレームの対応で現場に出向いた監理会社フロントマンが問いただすうちに、業者の責任者すなわち親方と言い争いになったらしい。「言うことを聞こうとしない」「いちいち言い方が気に食わない」というレベルの平行線だ。

 

現地に出向いた“理事長”の選択肢は2つ。

「契約を中断して監理会社が監理できる業者に再発注する」か「親方をなだめてなんとか工事を終わらせる」だ。

 

契約書を交わしていないので現在の工事を中断するのも可能だとは思ったが、すでに着手はしているし、前述のように「安くて腕がいい業者」だとしたら断わるのはもったいない。少々うるさいだけなら、なんとか続けてもらったほうがいいのではという淡い願いにすがりたい気持ちのほうが勝ってしまった。

なので、菓子折り片手に親方と会い、苦情が出ていることを説明して、「監理会社と協力して工事に当たってほしい」とお願いすることにした。

 

この時点では和解して、事態は快方へ向かったかに思われたのだがーー。

工事の完了報告だとばかり思った管理会社からの電話が、実はそうではなかったのだ。

(つづく)