ゴミ屋敷(汚部屋)問題を管理組合はどう捉えればいいのか

 

テレビのニュースなどでも折々報道されるように、日本各地で「ゴミ屋敷問題」が勃発しています。

敷地から溢れたままのゴミが、周辺の環境を著しく悪化させるというこの現象。

ゴミを放置したままの所有者が「意図的にやっている」ことで、解決の糸口がつかめないため、報道も行政官との小競り合いを興味本位で撮影しているだけ、というようにしか見えません。

また、そのようなビジュアル的なニュース・ソースであることをさらに証明しているのが、「ゴミ屋敷ニュース」の対象が個人所有の一軒家(ビル)であること。

これは、賃貸マンションはもちろん、分譲マンションでもこうした現象は発生しているにもかかわらず、「内部が見えにくい」つまり「ニュース映像としての役に立たない」という理由で報道されていない、という印象が否めません。

分譲マンションのゴミ屋敷(問題)について

マンションの戸内は、閉鎖性が高いため、内部の状態を推し測るのが難しいことは確かでしょう。

賃貸物件であれば、所有者が賃借人に管理するよう注意や指導することができます。

しかし実際には、所有者であっても、賃借人を無視して戸内の改善をすることはできず、(管理業務違反で退去を求められなくはありませんが)追い出してサッパリさせるのはかなり難しいと言わざるを得ません。

所有者が居住しているとなれば、さらにそのハードルは上がるでしょう。

 

ゴミ屋敷(汚部屋)問題の心理的な要因

忙しくてつい片付けを後回しにしてしまった、その結果の「厄介な大掃除」というのは、わりと誰にでも心当たりがあるものではないでしょうか。

親や教師に「片付けなさい!」と怒られて、渋々やった経験が「掃除への嫌悪」を招くトラウマになっていることもなくはないでしょう。

ただ、こうした軽度の「無精癖」は、問題化にいたるまで大きくなる前に片付くと考えられています。

というのは、第三者が片付けを手伝ってくれると、それを受け入れて改善できるからです。

重症化するケースは、第三者の介入を拒むことに違いがあると言えそうです。

第三者の介入を拒む背景には、セルフネグレクトが関係しています。

介入を拒むだけであれば、掃除やゴミ出しをしない理由として弱いのは確かでしょう。

なによりも、ゴミのなかで平気で暮らすことができる説明になりません。

セルフネグレクトとはなにか

では、ゴミ屋敷(汚部屋)問題の原因として考えられるというセルフネグレクトとはどんなものなのでしょうか。

ネグレクトとは、放任、放棄、無視という意味の言葉です。いじめやハラスメントの手段として用いられることで、この「放任、放棄、無視」が自分に向けて行なわれることをセルフネグレクトと呼びます。

短く翻訳すれば、「自己放任」「自分自身による世話の放棄」となります。

セルフネグレクトと呼ぶからには、精神的な支障がきっかけとなって発症すると考えられているわけですが、その原因としては認知症や慢性疾患などほかの病気を患うことによって引き起こされる自発的なものと、身近な人の死など「悪い出来事」によって引き起こされる多発的なものがあるようです。

どちらも「気が滅入る」ことがきっかけとなり、生活意欲が低下して、セルフネグレクト状態に陥ってしまうわけです。認知症の場合にはもう少し直接的な影響があると考えられます。

「生活意欲の低下」によって、不衛生・不潔な環境が「気にならない」という状況が恒常的になってしまうことになります。

「気にならない」ので、救済を他者に求めないわけです。逆に、指摘されることは「気が滅入ること」を喚起させることにつながるので、過剰に拒否反応を示すことになるのではないでしょうか。

セルフネグレクトに関して、本人が「気にならない」のであればいいではないかという意見があるかもしれません。

しかし、周囲の支援を拒否するだけでなく、不衛生・不潔な環境に長く身を置くことで健康被害のリスクを高めることになります。

健康被害に関しては、本人はもちろん、周囲への影響も無視できないでしょう。

内閣府経済社会総合研究所による2011年の調査結果では、日本にセルフネグレクト状態の高齢者が約1万人いると類推されています(「セルフネグレクト状態にある高齢者に関する調査」による)。

しかし、高齢者の9%が該当しているとのアメリカの調査もあることを考えると、日本でも300万人のセルフネグレクト状態高齢者が潜在していることになるのです。

 

セルフネグレクトがマンション管理組合に及ぼす影響

マンションにおける高齢化の問題は、すでに顕在化していると言っていいでしょう。

核家族から独居への移行し、限界集落ならぬ「限界マンション」の増加も深刻化しています。

こうした「数の減少」という問題に加えて、ゴミ屋敷(汚部屋)化という問題を引き起こしかねないのが、セルフネグレクトです。

セルフネグレクトがマンションの管理組合運営に与える影響は、大きく2つあるでしょう。

1つは、無関心による非協力的な態度が加速すること。

これは、管理組合活動への無関心が加速するだけでなく、管理費修繕積立金の滞納を引き起こす可能性が高くなるでしょう。

もう1つは、環境の悪化がもたらす周辺への迷惑です。

ベランダに放置されたゴミ類は悪臭を周囲へまき散らします。害虫が発生して、上下左右の戸内にも侵入するようになるでしょう。

こうなれば、「専有部分の問題は管理組合が介入できない」と言ってはいられなくなります。

個人間での被害届を出すことで直接的な解決を図る方法もありますが、実際にはこのような民事事件で個人が加害者と被害状況を特定して改善の方向へ持って行くのはかなり難しいでしょう。

管理組合としては、こうした居住者がいることでマンションの環境が悪化して、資産価値を下げることを防ぐ責任もあるはずです。

そのため、迷惑行為としてこの問題に対処し、しっかりと向き合っていく必要があります。

もちろん、一方で改善を求める厳しい態度を取りながらも、対象者の境遇を思いやって、心理的な改善を補助する活動も添えるほうが望ましいと言えます。

迷惑行為としての対処は、滞納対応と同じ考え方でいいかと思います。

心理的な改善のサポートとしては、地域の民生委員や行政の担当者などと連携して、「話を聞く」というスタンスを持つことも必要かもしれません。

 

現代版の「隣三軒両隣」であるマンションだからこそできるセルフネグレクト解消の効果的なケアも、管理組合として取り組むべき課題と言えるのではないでしょうか。